おばあちゃんと畑の物語:さつまいもの思い出

童話

僕のおばあちゃんはタバコ、お酒、踊りが大好きでいつもニコニコしていました。家事のことや農業のことなどなんでも教えてくれました。どこかへ出かけるときはいつも一緒でした。そんなわけで親戚の人たちからはおばあちゃんの一番大好きな孫ということで特別待遇を受けてうれしかったことを覚えています。

1.おじいちゃんの実家で芋苗を分けてもらう

おじいちゃんの実家は僕の家のすぐ隣でよく行き来をしていました。屋敷のとなりには牛舎やさつまいもの苗床がありました。僕はときどきおじさんに耕運機のうしろに乗せてもらい、畑やたんぼで遊んだりしていました。

ジャイ、そろそろ暖かくなってきたから畑に堆肥を持って栄養のある土にしようと思うんだ。手伝ってくれない。(堆肥:野菜くず、果物の皮、木くず、落ち葉などを層状にして積み上げ、水分を補充しながら発酵させて作った肥料。現在はコンポストがあるのでそれらの材料を入れて楽に有機肥料が作れます。)

いいよ。何を作る準備なの?

さつまいもだよ。栄養のある土になったら芋苗を植えるのよ。

二週間を過ぎたころおばあちゃんが言いました。

今日はさつまいもの苗を本家にもらいに行くよ。

さつまいもは苗を植えて育てるんだね。

そうだよ。でもね、苗を切るときには注意することがいくつかあるんだよ。苗の長さを30cmくらいに切ること。切り口は斜めにきれいに切り落とすこと。苗を深く埋め込むことなどだよ。

意外とめんどうなんだね、おばあちゃん。

そうだね。苗の長さも根の張り方に関係しているし、これからは根付くまで水やりがたいへんだよ。

大丈夫さ。畑までは300mくらいでしょ。すぐに行けるから。

一週間くらいは朝晩水やりね。そうすると苗が良く根付くんだよ。根付いてからは、必要以上に水をあげると根腐れを起こすので注意が必要だね。

そのあとはどうするの。

水はあまりあげなくていいんだけど、草が生えてくるのでそれを抜かなくちゃいけないのよ。

いろいろやることがあるんだね、おばあちゃん。ぼくも草抜き手伝うよ。

2.芋苗の管理

春に植えた苗だから9月から10月が収穫時期だよ。

収穫時期まで待っていればいいの。

そうはいかないよ。葉や茎が成長するために化学肥料をまかないといけないよ。特にリン肥料かな。(リン肥料:植物の成長に必須、花を咲かせ実を結ばせる作用、根を十分に張らせる作用があります。)

肥料をまくときは僕も手伝うからね。

3.芋苗の生長

おばあちゃん、芋苗は背が高くなるの?

肥料が効いてくれば地に這うように横に広がっていくよ。だから葉が密集してくるのよ。青々としてくるからそのときは元気な証拠だね。

それを確かめたら畝と畝の間の草抜きをしっかりやるだけでいいの。

そうだね、ひと月もたてばもう一度化学肥料をあげましょう。今度はカリウムを多く含む肥料だよ。そうするとお芋が大きくなるの。あとは収穫の時期を待つだけだよ。(カリウム肥料:病気を防いだり、味、形、大きさを促進します。)

4.さつまいもの収穫

夏休みが終わり、秋口に入る頃でした。少しだけ風が冷たく感じられるときがありました。

ジャイ、そろそろさつまいもができる頃だよ。今度の休みのときはさつまいも掘りに行こう。

さつまいも掘りのタイミングは?

もちろん9月、10月の時期だけど。また葉やつるが枯れてきたり、土が盛り上がってきたりすることも収穫時期と判断できるのよ。

早く日曜日が来ないかなあ。

待ちに待った日曜日です。いつになくそわそわしてジャイオは落ち着きませんでした。

持っていくものはなーに。

ジャイは軍手をはめていけばいいよ。おばあちゃんはかごをしょって、鎌を持っていくから大丈夫だよ。

葉も黄色く枯れ始めていたので、試しに掘ってみました。するといくつもの芋が連なり合って根っことからみあっていました。ジャイオはうれしくてどんどん掘っていきました。

一つ一つじゃなくていくつも一度に採れるんだね。これではおばあちゃんの大きなかごでもすぐにいっぱいになっちゃうよ。

一度には重くて運べないので何回も往復しましょう。お家までは近いからね。

家に帰ると家族全員で迎えてくれました。「これだけ。」と弟、妹は寂しそうでした。「まだまだあるよ、畑に戻らくちゃ。」と言うと、「僕たちも取りに行くからね。」とやる気が満ちあふれているようでした。何度か往復してさつまいもを一か所に集めました。物置にしまっておいたむしろにそれらを広げてみました。そして天日に干しました。(むしろ:わらで編んだ敷物

僕は焼き芋がいいなあ。

それじゃ、落ち葉と木切れを用意して庭の真ん中で焼き芋を作ろう。まず充分な火力にしてから灰の中にお芋をしばらく入れておくんだよ。ときどきは確かめてね。

わかった。木切れで、灰の中のお芋ができたか確かめるよ。

私は干し芋が食べたいわ。

僕もかまどでさつまいもを蒸かして干し芋づくりを始めるかな。残りはどうする、おばあちゃん。

さつまいもは腐りやすいので保存をきちんとしなくちゃね。

どうすればいいの。

日光にさらしてから、さつまいもを新聞紙などに包んで湿気対策をするの。それにね、物置などの暗い場所で風通しの良いところを選ぶのよ。

わかった、みんな手伝って。早く終わらせよう。

それぞれは自分の食べたい調理法を思い浮かべながら、せっせとさつまいもを新聞紙に包みました。その手さばきは軽快で、表情はうれしさいっぱいでした。

5.さつまいもをかまどで蒸かす

12月に入り冷たい風が吹くようになりました。まさに干し芋作りの季節です。干し芋作りは日光と冷たい風が必要なのです。

僕はさっそくお芋を蒸かすよ。きみたちも手伝ってね。

うん、わかった。何をすればいいの。

かまどに薪を入れてくれないか。最初は新聞紙の上に細い木を何本かのせて、またのせる。火が勢いづいたら太い薪をその上にのせるんだ。そうしていくうちに、お湯が沸騰して中敷きの上のお芋が蒸かされるんだ。(蒸かす:ふかす)

どうやって蒸かし終わったか見分けるの。

それはね。ふたを開けて、長くて太いお箸をお芋に刺してみるんだよ。スルッとお箸が突き抜けたら蒸かし方は終了。

つぎは何をすればいいの。

じゃ、右のお釜のお芋を取り出してから、おばあちゃんにお芋の切り方を教えてもらいな。

うん、でも柔らかくて難しいそうだな。

僕は左のお釜のお芋を鉢の中に入れてすりつぶすよ。

6.干し芋づくりの始まり

お芋は熱いのでばあちゃんが取り出すね。それから少し時間をおいてお芋の熱をとりましょう。そのあと私たち三人でお芋切りだね。

僕は鉢のお芋を完全にすりつぶします。それが終わったらコロッケを作る要領で手のひらで丸くします。どんどん作っていくよ。そのあとどんな道具で干すの、おばあちゃん。

物置に四角の大きな干す道具があるよ。天気のいい日には朝から夕方まで干すのよ。干し芋の出し入れはたいへんだよ。

でも、それをすればどんどん美味しくなるんでしょ。僕が全部出し入れをやるからね。任せておいて。

頑張ってやってね。

ジャイオは自分の干し芋は自分で並べ、おばあちゃんたちの干し芋は弟、妹に並べさせました。美味しそうでつまみ食いをしたくなりました。

お兄ちゃん、いつ食べられるの。

そうだなあ。1か月後くらいかな。それまでは毎日干し芋をひっくり返す作業があるからね。そうしないとカビが生えてくるんだよ。だから自分たちの作った干し芋は自分たちでやってね。

1か月後が楽しみだけど、お兄ちゃんの干し芋はちょっと違うよね。どうやって食べるの。

二つの食べ方があるよ。そのままでも美味しいけど僕の記憶の中ではあみの上で焼いたほうが香ばしくて美味しかったんだ。

僕たちも食べていい? 

もちろんだよ。焼いている途中でプーンといいにおいがしてくるし、表面に焼き色が付いてきたらたべられるよ。

家族みんなで一緒に食べたいな、おにいちゃん。

7.二種類の干し芋の試食会

家族全員が試食会に参加しました。ジャイオの干し芋とおばあちゃん、弟、妹たちの干し芋の味比べです。みんなが集まって食べる干し芋は格別な味でした。

ジャイの干し芋は熱々だと最高ね。

本当だ。これはお酒のおつまみにもなりそうだ。

おばあちゃんたちの作ったものも柔らかくてとても甘いね。飴色できれいな干し芋だ。

そうなんです。でんぷん質が少ないお芋なので甘さが引き出されているんです。みんなでじっくり味わいましょう。

こうして干し芋の試食会は楽しく盛大に行われたのでした。