父と子のシジミの冒険〜3つのバケツに秘めた誇り

童話

僕はジャイオです。小学3年生で釣りが大好きな少年です。父は海でも川でもスイスイ泳ぐことができました。ある日、川に行こうと誘われました。釣りかなと思い道具を持って喜び勇んで家を出ました。

1. 櫓(ろ)をこいでみる 

今日は特別に小舟を借りてあるんだ。櫓のついた小舟だよ。

櫓とはどんなもの?

舟の後ろに棒があって真ん中から先は板になっているんだ。

それをどうするの。

押したり、引いたりして舟を進めるのさ。

へー。エンジンがなくても進められるんだね。僕にもできるかな?

ちょっと難しいかな。櫓は一本のロープと舟にある出っ張りに櫓のへこんだところが少し合わさっているだけだからすぐとれてしまうよ。

そんなことないよ。やらせてみて、お願い。

2. 反対側の岸に到着

ジャイオは何度も試みましたが、すぐに櫓が外れてしまい、うまくいきませんでした。そうこうするうちに反対側の岸の近くに到着しました。父親は櫓を自由自在に操り、方向転換しました。ジャイオは反対側から自宅の方を見るのは初めてでした。

あの辺りだな、僕の家は。何か新鮮な気持いっぱいで釣りを忘れるところでした。

ぼーっとしてないでシジミを採り始めるよ。

釣りじゃないの?いったいどうやって採るの。

舟から降りて、足でかき分け自分の手ですくうのさ。

ここ深くない?

深くないよ。降りてごらん。

3. シジミ採りの始まり

僕は舟につかまりながら恐る恐る降りてみました。ところが、すぐに地面に足がついてほっとしたのでした。どうしてお父さんは浅いか深いか分かるのだろうと不思議に思いました。でも、自分が何も知らない子供であると思われるのが嫌で、それを聞こうとはしませんでした。いよいよシジミ採りの始まりです。小さなバケツに腰ひもを付けて足をくねらせました。

お父さん、足がじゃりじゃりして痛いよ。

じゃ、手ですくってごらん。

小さな黒い貝だ。いっぱいあるよ。

足に当たるじゃりじゃりは全部シジミだよ。

えーそうなの?またいっぱい採れた。

何度も何度も繰り返して、小さなバケツにいっぱいになると、50cmくらいの長い大きなバケツに移しました。大きなバケツに1杯、2杯、3杯、採っても採っても採り切れません。喜びを通り越して驚きでいっぱいでした。

お父さん、こんなに採れるって思っていた?

人からうわさを聞いてはいたんだが、半信半疑だったよ。でも、お前の喜ぶ姿が見たかったからここへ連れてきたんだ。

うーん。そうだったんだ。ありがとう、お父さん。

4. 小舟で帰る

ジャイオは帰りには舟の先の方に座り、シジミの大漁に満足げな様子で家のある方向を見つめていました。達成感で顔はニコニコ顔でした。父親も二人で頑張りきれたことに満足していました。

こんなにたくさん採れるとは思わなかったよ、お父さん。

父さんもだ。お前は疲れ知らずでよく頑張ったな。

だって夢中で採っていたので何も感じなかったよ。

そうか。暗くならないうちに帰るとするか。

うん。みんな楽しみにしているかな。

これを見たらびっくりして腰を抜かすかも。

どんなふうにして採ったのか詳しく聞いてくるよね。ただ足に当たったシジミをかき集めただけなのに。

そうだね。でもね、こんなに採れては普通に採れましたじゃ済まないので、よく考えて臨場感あふれた場面をみんなに詳しく説明するんだ。

そうだね。思い出してみるよ。

そうすれば、みんなもそこでシジミを採ったような感覚が味わえると思うよ。

5. 成果の報告

帰宅をして家族みんなに今日の成果を見せました。全員、口をあんぐり開けて言葉になりませんでした。しばらくして、祖母や母親たちがバケツに手を入れて、下まで「全部シジミなの?」と驚きを隠せないようでした。

お父さんの言う通りだった。みんな驚きを隠せなかったね。

驚いているみんなの前で、ジャイオは大げさとも思えるジェスチャーを使って採るときの様子を克明に説明しました。みんなはただただジャイオの説明をうなづきながら聞いているだけでした。誰一人として声を発しませんでした。

これだけの量はだれも見たことないから声も出ないのは無理もないよね。

お父さんは自信満々に声を発しました。

お父さん、明日からは毎日シジミの味噌汁だよ。来る日も来る日もね。お母さん、そうでしょ。

もちろんですよ。

今日はシジミに免じて多少のお酒は大丈夫かな、母さん。

今日だけは許しますよ。

わしもいいかな、ばあちゃん。

調子にのらないでください、おじいちゃん。

全員の笑いが起きました。こうしてシジミの味噌汁で楽しい夕食が始まりました。父親とジャイオのシジミの大漁が家族全員の気持ちを一つにしたのでした。