赤ちゃん鳩を飼う

童話

ある日、知り合いのおじさんが生まれたての鳩の赤ちゃんを一羽持ってきてくれました。灰色の羽毛に黄色の産毛がたくさん混じっている状態でした。

1. 産毛の鳩との出会い

餌は何をあげればいいの?

大豆を水に付けておいて柔らかくするか、少し蒸すかどちらかだね。

赤ちゃんは自分で餌を食べられないよね。

口ばしを左手で持って口を少し開けてあげるんだ。そして右手で大豆を口の中に押し込むようにするんだ。すると飲み込むのでいくつか同じようにしてあげるといいよ。しばらく様子を見て、ほしそうであればもう少しあげるといいよ。

お水はどうするの?

水の入ったお椀を口ばしにつけてあげるとひとりで飲むよ。

2.大豆で育てる

こうして毎日大豆をあげ続けました。特別注意したのは鳩が犬や猫に狙われないように、かごに入れて物置に隠しておきました。

しばらくすると、黄色の産毛が取れてきました。ようやく赤ちゃんからの脱皮です。よちよち歩きができるようになりましたが、相変わらず大豆を口ばしに入れてあげました。大豆の消費量も徐々にですが多くなってきました。

うわさを聞きつけて友だちがやってきました。

おまえの鳩大きくなったか。

うん、翼もしっかりしてきたよ。バタバタ動かすこともできるよ。

それじゃ、20㎝くらいの高さから後ろを押してあげたらもっとバタバタするんじゃない。飛ぶ練習の一歩だよ。

リンゴ箱があるから、それを使って練習させよう。

そうして一週間ほど練習しているうちに、バタバタ、バタバタと翼の勢いがついてきました。

3 . 翼の成長

ある日、庭先で遊んでいた鳩が突然翼をバタつかせて屋根の淵まで飛び上がることができたのです。でも、すぐには降りる勇気がなかったみたいです。もじもじしていました。

ほら、ここに餌があるよ。

屋根に鶏の餌をまいてから、庭にもまきました。

降りてくるかな。

餌がほしければ降りてくるさ。

こうした日々の繰り返しをしているうちに屋根から庭へ、庭から屋根へと楽に移動できるようになり、それを楽しんでいるようでした。

4. 登校班についてくる鳩

産毛もすっかり取れて両方の翼には斜めの黒い二本の線が現れてきました。そこで鳩の名前を「二本線」と名付けました。

ある朝、登校班で学校へ行く途中、全員で上空を見上げると一羽の鳩がついてくるのでした。何度も上空を旋回しながら僕たちの歩調に合わせているかのようでした。

鳩がついてきているような気がするんだけど。

ひょっとしたらお前の鳩じゃない。

冗談言わないでよ。ご主人様がわかるわけないでしょ。

いやお前は赤ちゃんから育てたから、鳩にとってはお前が親だよ。

上空からでも僕のことがわかるのかな。

わかるからついてくるんだよ。

5 . 窓に激突してくる鳩

一時間目の授業が始まって間もなく何かが窓にぶつかる音がしました。

何の音だ。

一羽の鳩が何度も何度も窓にぶつかってきたのです。

あっ、二本線だ。僕の鳩です。

えー、本当についてきたの。信じられなーい。

窓を開けて中に入れてあげなさい。

教室の中は大混乱で授業になりませんでした。鳩を捕まえるのにクラスの全員が協力してくれました。やっとの思いで鳩をこの手で抱き寄せました。

鳩は体育の用具室に入れておけばいいよ。水だけは用意してね。

はい、先生。

6. 言いつけを守った鳩

友だちと二人で体育用具室に行って鳩をそこに置いてきました。

大丈夫かな。

大丈夫さ。水だけ置いておけば。ひとりで遊んでいるよ。心配ない、心配ない。

6時間目の授業が終わり、用具室に急いでいきました。戸を開けると狭い中を飛び回っている姿が目に飛び込んできました。

元気だったんだね、二本線。

当たり前だろ、お前の鳩だからな。

こうして二人は鳩を外に出してあげました。すると勢いよく上空へ舞い上がり、運動場の上を旋回をし続けていました。

先にお家に帰ってていいよ。待ってなくていいからな。

そんなこと言って鳩にはわかるのか。お前の気持ちはわかるけど。

ジャイオは鳩に後れを取らないように1.4kmの道のりを小走りで家に帰ってきました。すると、ジャイオが家に着くや、すぐさま鳩が降りてきました。「クック-、クック-」と大きな鳴き声でした。

どうして学校までついてきたんだ。たいへんな目にあったろう。もう二度とついてきてはだめだ。

クック-、クック-。

7. 親離れする鳩

それ以来、数日間鳩は帰ってきませんでした。ときどきは帰ってきたと思ったら、不意にいなくなるのでした。

お前の鳩が先輩の家の数匹の鳩と一緒に飛び回っているらしいよ。

ジャイオは鳩を叱ったからなのか、それとも仲間の鳩たちのほうが楽しいのか、あれこれ考えました。

くやしいな。でも仲間の鳩と楽しく遊べるのならそれでもいいか。

先輩の家に行って返してくれとは言えないよな。

二本線は仲間の方が楽しいらしく二度と戻ってきませんでした。

あきらめきれないな。赤ちゃんのときから育てたのに。親離れなのかなあ?